noteが新規上場(IPO)!ビジネスモデルと業績を分析
今回は12月21日に東証グロース市場に新規上場(IPO)予定のnoteについて分析します。
事業概要
メディアプラットフォームのnoteを運営しています。noteはSNSやネットで情報収集する人にとっては、馴染みのあるサービスで知名度も結構高いのではないかと思います。
ブログサービスなどと大きく違う点とは広告が出ない点と、収益化の方法が課金という点です。
この収益化も記事ごとの販売や月額課金などがあり、クリエイターがそれぞれにあった収益化の方法を選択することが簡単に出来るようになっています。
noteの収益は課金された代金から一定料率をサービス利用料として徴収するという、典型的なプラットフォーム型ビジネスです。
サービス利用料は以下の事務手数料とプラットフォーム手数料で構成されています。
事務手数料
コンテンツの決済手段により以下の料率を乗じた額を差し引きます。
クリエイターご自身が登録されている決済手段ではなく、購読者の決済手段によります。
クレジットカード決済 :売上金額の5%
携帯キャリア決済 :売上金額の15%
PayPay決済 :売上金額の7%プラットフォーム利用料
売上金額から事務手数料を引いた金額に以下の料率を乗じた額を差し引きます。
有料記事、有料マガジン、サポート、メンバーシップ:10%
定期購読マガジン:20%
業績
noteは急激に売上を伸ばしてきていますが、販管費も増加しており大きな赤字が続いている状態です。
売上が急激に伸びている2020年11月期は巣ごもりによる影響が大きいと推察されます。
上のグラフは21年11月期までの業績ですが、22年11月期の3Qまでの業績は同資料によると売上が1,729百万円で純損失が524百万円となっており増収減益のトレンドが続いています。
販管費が増加している主因は人件費の増加です。
noteのコストは直近の業績で半分くらいが人件費となっています。
強みと懸念点を考察
noteの強みの一つは、テレビ東京や日経新聞、UUUMなどとの資本業務提携により、「クリエイター支援プログラム」としてメディアにクリエイターを紹介するなどが可能となっていて、コンテンツの業界において一定程度プレゼンスは高い事だと思います。プレゼンスの高さは著名クリエイター獲得の優位性として大きいと思います。
noteはクリエイターがコンテンツを創作し、読者が増加し、良いコンテンツは拡散もされて、クリエイターと読者が増えていく、といったサイクルで拡大してきたようです。
そのため、資料によるとnoteの広告宣伝費は他の成長企業と比べて著しく低くなっています。
広告宣伝費が低くてもユーザー獲得が出来るというのは魅力的なモデルであるものの、その分サービスのクオリティを上げるための、人件費も多くなっているため利益面では強みといえるかは微妙だと思います。
noteとしてはクオリティで勝負してコンテンツプラットフォーマーとして勝ちにいく戦略だと思いますが、現状の人件費の水準だと今後もかなり売上を積み増していかないと利益をだすのは難しいでしょう。
広告宣伝費の場合、容易に増やしたり減らしたりとコントロールが出来ますが、人件費の場合一度増やすと削減するのは容易ではありません。
そのため黒字化には時間がかかると思います。
上場の概要
noteの上場は仮条件決定日が12月5日、ブックビルディングが12月6日から12日、上場が12月21日の予定となっています。
想定発行価格は300円で、これを基に計算すると時価総額は44億円程度になります。公募売り出しによる吸収金額も4億円程度になる計算ですので、IPOの規模として大きいものではありません。
公募 が210,000 株で売出し(引受人の買取引受による売出し)が1,069,300 株、オーバーアロットメントによる売出しが 191,800 株となっており、ベンチャーキャピタルなどの既存株主による放出も多くなっています。
巣ごもりの中で急拡大して注目度の高い企業のため、短期的に盛り上がる可能性もありそうですが、中長期的には成長性について慎重に見極める必要があるように思います。
ベンチャーキャピタルが売却するという事は、これ以上値上がりが期待できないのではないかといった連想に繋がることも株価的には懸念点でしょう。また12月はIPOが集中するため資金が分散する可能性もあります。
関連銘柄
noteの既存株主には上場している企業もあります。
保有株数 UUUM(3990)410,000株、テレビ東京ホールディングス(9413)410,000株、イード(6038)277,700株、BASE(4477)48,600株
どの銘柄もそこまで業績にインパクトがあるわけではありませんが、イード(6038)は時価総額が小さいのもあって、noteの上場承認の翌営業日は3%以上の上昇となりました。
イードは業績への影響は軽微としていますが、noteの株価の推移次第ではイードも物色対象になる可能性もありそうなので注目です。
この記事は11月19日時点で公開されている情報を基に作成しています。
IPOに関する情報は稀に訂正や変更される場合がありますので、実際に投資する際は最新の目論見書等もチェックすることをお勧めします。
投資は慎重に自己責任でお願いします。
ワールドカップ関連銘柄 サイバーエージェントの株価・業績を分析
今回はサッカー・ワールドカップの放映権を持つABEMAを傘下に持つサイバーエージェントについて分析します。
サイバーエージェントの事業と業績
サイバーエージェントの主な事業はメディア事業・インターネット広告事業・ゲーム事業の3つです。
事業別売上推移(単位:百万) | インターネット広告 | ゲーム | メディア | その他 | 投資育成 |
2018年度 | 241,451 | 146,552 | 31,489 | 17,598 | 4,263 |
2019年度 | 260,212 | 152,224 | 37,304 | 18,947 | 6,428 |
2020年度 | 269,396 | 155,861 | 57,098 | 19,599 | 4,092 |
2021年度 | 321,313 | 262,751 | 82,869 | 21,744 | 6,441 |
2022年度 | 376,819 | 228,387 | 112,142 | 25,716 | 4,438 |
事業別営業利益推移(単位:百万) | インターネット広告 | ゲーム | メディア | その他 | 投資育成 |
2018年度 | 20,609 | 26,040 | -17,838 | 907 | 4,593 |
2019年度 | 21,071 | 30,337 | -18,267 | 1,300 | 3,068 |
2020年度 | 21,340 | 25,303 | -17,764 | 1,819 | 2,631 |
2021年度 | 22,570 | 96,445 | -15,141 | 479 | 4,408 |
2022年度 | 24,464 | 60,531 | -12,419 | -16 | 2,524 |
インターネット広告事業は売上と利益の両方が右肩上がりで推移しており、サイバーエージェントの安定成長事業といえるでしょう。
ゲーム事業は売上と利益、共に2021年度に跳ね上がっていますが、これはサイバーエージェントの子会社のCygamesのスマホ向けゲームアプリ、ウマ娘 プリティーダービーの大ヒットの貢献による部分が大きいです。業績のボラティリティの大きな事業といえるでしょう。
メディア事業はテレビ朝日も出資するABEMAや競輪オートレース投票のWINTICKET、アメブロ、恋活マッチングアプリのタップルがあります。メディア事業の赤字はABEMAへの投資によるものです。
ABEMAは順調に規模を大きくしてきており、開示資料によると22年9月にはダウンロード数が8,300万を超えているようです。またメディア事業の損益も2019年度をボトムにして切り返しています。この損益改善のトレンドと規模拡大が継続するかが今後の注目点だと思います。
サイバーエージェントの今期の予想PERは11月17日時点で40倍程度で利益に対して時価総額は大きくなっていますが、投資成長事業と安定成長事業が上手くポートフォリオ組まれており、ある程度高PER でも許容される銘柄でしょう。
株価と22年9月期決算
10月26日に発表された22年9月期の決算は引き続き増収着地でしたが、ゲーム事業反動が大きく影響し減益となりました。実績値の株価的なインパクトは4Qのインターネット広告事業のマクロ市況を反映した成長鈍化もあり、ニュートラルか、少しネガティブだったと思います。
23年9月期の業績予想は微増収ながら、営業利益で前年比194億~294億の減益、純利益で前年比42億~92億の減益を予想しています。コンテンツ投資などもありレンジでの業績予想の開示となっています。この業績予想が市場予想を下回っており株価にとってはネガティブでした。
株価は10月26日の決算発表後、事前に期待で上がっていた分を打ち消す形で下落しました。11月1日には額面400億円の転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行を発表しています。CBは社債に新株予約権が付いており、決められた価額で株式に転換できる社債ですので発行されると潜在的に株式の価値が希薄化してしまいます。今回の発行は転換価額1507円で希薄化率5.25%となる見込みです。
サイバーエージェントの財務状況は良好な事から、株式の希薄化リスクのある資金調達は想定していなかったと考えられ、CB発行の発表の翌日から株価は大きく値下がりし、一時は1,100円を割り込む場面もありました。CB発行で得た資金の使途は前回発行のCBの償還資金と投資などに充てるとしています。その後11月4日から反転しCB発行の発表前の水準まで戻ってきています。
これは特に目立った材料があるわけではなく、FIFAワールドカップ関連として物色されているためではないかと思います。
ABEMAはFIFAワールドカップの放映権取得で成長加速できるかが焦点
ABEMAはFIFAワールドカップカタール大会の放映権を取得しており、中には独占配信をする試合もあるようです。取得金額は不明ですが、試合の配信によって利益を出すというより、あくまでABEMAの中長期的な成長につながる投資として認識するべきでしょう。
ワールドカップの放送によるユーザー獲得や関連番組、広告収入などによって、今期のメディア事業の赤字の大きさが変わってきますので、ワールドカップが盛り上がるかどうかは業績に大きく左右すると思います。
今回のワールドカップは前回の大会より、今のところ盛り上がりに欠けているように感じますが、足元では巣ごもりの機運も高まっていることからABEMAの期待は高まっているように思います。ワールドカップへのコンテンツ投資が想定より効果的だった場合は、業績予想のレンジ上限の引き上げなどの可能性もあると思います。
ABEMAの成長が加速して黒字化が見えてきた場合、株価の本格的な上昇も見えてくるように思いますが、当面はメディア事業の赤字の大きさを気にしながらの展開になると予想します。
この記事は11月17日時点で公開されている情報を基に作成しています。
投資は慎重に自己責任でお願いします。
決算発表後、株価軟調の任天堂を分析
今回は株式分割によって個人投資家も株を買いやすくなった、任天堂について分析していきたいと思います。
2Q決算の内容
任天堂の23年3月期の中間決算は前年同期比0.2%増の営業利益2,203億円でした。Nintendo Switchハードの販売台数は部材不足の影響により、前年同期比19.2%減となりました。それでも増益で着地出来たのは為替の要因とソフトウェア販売が前年同期比1.6%と堅調だった事が大きいです。
2Q 決算時に通期の業績予想も上方修正しています。ただ営業利益を据え置いており、修正後の経常利益も市場予想を下回る水準となっています。また通期のNintendo Switchハードの販売台数予想も2100万台から1900万台に下方修正をしており、年末商戦に向けて不安が残る決算発表となりました。
決算発表後なぜ株価下落?
任天堂の株は決算発表後、売り気配で始まってその後も軟調に推移しています。
決算前にはスプラトゥーン3の好調が伝わっており、今回の決算は良い内容が出てくると期待され、事前に好決算が株価に織り込まれて迎えた決算でしたので、決算内容に失望した人も多かったように思います。
特にNintendo Switchハードの販売台数予想の下方修正と通期の営業利益予想の据え置きはネガティブサプライズでした。また、市場にはスプラトゥーン3の貢献による通期のソフトウェア販売本数の上方修正期待もあったと思いますが、そちらも据え置きとなっています。
決算発表後の株価の下落の一因には為替が円高に振れていることもあると思います。決算発表時は140円台後半で推移していましたが、米国のCPI発表後急速に円高が進み、11月14日時点では140円前後で推移しています。任天堂の修正した業績予想の為替前提レート135円なので、会社の業績予想に対して更にネガティブになる水準ではありませんが、為替による業績サポートが無くなるのは痛手でしょう。
決算発表自体はネガティブな内容でしたし為替動向も心配ですが、引き続き上振れ余地は残されていると思います。人気タイトルのスプラトゥーン3はまだ海外を中心に販売を伸ばす余地がありますし、11月18日にはポケットモンスターシリーズの新作ゲームの発売を控えており、これらの好調が見えてきた場合株価が反転する可能性も高いと思います。
またNintendo Switchハードの販売台数予想の下方修正は部材不足が原因の供給サイドの問題であり、需要サイドの問題ではないという事も重要なポイントです。
任天堂の株は割安か割高か?
ゲームセクターのPERは概ね15~25倍の企業が多いです。任天堂の予想PERは11月14日時点で16.5倍となっておりPERだけみると割安と考えられます。しかし任天堂の株の評価をめぐってはアナリストの中でも評価が分かれる部分があるようです。
評価の分かれ目は以下のようなポジティブな要素とネガティブな要素のそれぞれを、どの様に株価に織り込むべきかによって生じていると思います。
ポジティブ,ポテンシャル
- 安定したキャッシュフロー
- 強いIP
- デジタルソフトへの移行順調
ネガティブ,懸念点
- 競争激化
- Switchのピークアウト
- パイプラインの持続性
- 次世代機への移行失敗
任天堂の魅力は安定したキャッシュフローに加え、配当性向50%といった魅力的な株主還元があります。また絶大なブランド力を誇るIPやデジタルソフトへの移行も順調なことなどは株式市場で評価されるべきだと思います。
一方で任天堂の株は割高と指摘する人は、Switchのピークアウトを意識している人が多いです。この懸念点は次世代機の具体的なものが出てこなければ払拭されずに付きまとうように思います。
しかし個人的には23年発売のゼルダの伝説など期待できるソフトが続くことから、懸念が現実となり、業績が著しく下降トレンドに入るといった事を株価に織り込める段階ではないと考えています。
株式分割をして個人投資家も買いやすい株になりましたし、予想配当利回りも3%台に入るまで株価は下落してきていますので、投資妙味は増しているように思います。
この記事は11月14日時点で公開されている情報を基に作成しています。
投資は慎重に自己責任でお願いします。
ソニーグループ22年度2Q決算解説
今回は11月1日に発表されたソニーグループの第2四半期の決算について分析、解説していきます。
全体の主なサマリー
2Qの決算で通期業績見込みを前回予想から売上を1000億円,営業利益を500億円を上方修正しました。
ゲーム事業や為替動向など不安な点もありますが、総合的には非常にポジティブな内容の決算でした。
ソニーグループは業種の分類では、電子機器に分類され景気敏感な会社というイメージが強いですが、今回の決算では多様な事業ポートフォリオを持つことによる景気悪化への耐性を確認できたように思います。
ゲーム(G&NS)は引き続き低調
G&NSの23年度2Qは営業利益が405億円で前年同期比49%減となりました。主な要因は、為替の悪影響や買収費用の計上、開発費の増加、サードパーティー・ソフトウェア(自社制作以外のソフト)の販売減少などがあります。
1Qの決算で営業利益の通期見通しを2,550億円に下方修正していますが、2Qの決算でも2,250億円に再度下方修正しました。主な要因は2Qまでの実績とサードパーティー・ソフトウェア(自社制作以外のソフト)の販売減少、為替の悪影響を更に織り込んだ事によるものです。
G&NSの為替の影響は、円安が進むと売上にはプラスですが、ドル建てコストの比率が高いことから利益にはマイナスに作用します。為替要因の下方修正については前回発表時よりも為替の前提レートを円安方向に修正していますので、サプライズ感はなかったと思います。
為替を除いた要因についてはネガティブな印象が大きいです。
1Qのソフトの販売本数は前年同期比26%減の約47千万本で2Qは18%減の約62千万本でした。またサブスクリプション型ビジネスのプレーステーションプラスの2Qの会員数は45.4千万人で前年同期比の47.2千万人を下回りました。低調な理由として外出機会の増加などが挙げられています。
ゲーム事業は2Qまでは低調でしたが、3Q以降は回復の公算が大きいと思います。 3Q にはファーストパーティーのソフトであるゴッド・オブ・ウォーラグナロクが発売されました。決算説明会でもCFOが期待していると言っていましたが、Bloombergによると好スタートを切っているようです。
ソニーグループが9日発売したビデオゲーム「ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク」が好スタートを切った。レビューサイトでの評価も高く、同社の期待通り、ヒット作になる可能性がある。
サードパーティーでは、10月28日から人気シリーズ、Call of Dutyの最新作が発売されていることから、3Qの復調には期待が大きくなっていると思います。
音楽,映画のコンテンツは強い
今回の決算は音楽、映画事業の強さが目立つ決算だったように思います。
音楽事業は売上高877億円(前年同期比32%増)、営業利益は281億円(56%増)となりました。通期の見通しも売上を7%、営業利益を15%上方修正しています。
音楽事業は売上と営業利益の両方が円安がプラス影響となりますが、為替影響を除いても非常に強い数字となりました。CDを売るビジネスモデルからストリーミングで稼ぐモデルに上手く移行できたことにより、景気などにも左右されにくい事業に変化したと思います。
ソニーの音楽事業は今まで様々なM&Aや音楽カタログの取得など積極的な投資をしてきましたが、それらの成功を実感させる決算だったと思います。音楽出版に関しては、ソニーが所有,管理する曲数が引き続き増えており、これからも安定的な成長が見込まれます。
映画事業も通期の業績見込みを上方修正しています。映画もヒット作品が出るかによって業績は左右されますが、Crunchyrollなどのサブスクリプション型ビジネスもあり、映画セグメントの中でも多様な事業ポートフォリオが組まれています。
I&SSは過去最高の売上を記録
イメージセンサーなどのI&SSは為替の好影響も大きく売上は過去最高となりました。
イメージセンサーのローエンドのスマホ向けは回復しませんでしたが、iPhone向けとみられるハイエンドスマホの大判化・高性能化により堅調な業績となりました。
ハイエンドスマホのイメージセンサーの大判化トレンドは続くとみられていますし、車載向けに関しても中長期的な成長期待が大きいです。当面は景気や為替、iPhoneの生産状態など懸念点も多く、業績はぶれると思いますが、投資を継続して業界でのプレゼンスを維持することが重要かなと思います。
決算後の株価の反応
決算前のソニーグループの株価はナスダックの下落につられて、年初来の安値圏で推移していました。
決算の翌営業日の株価は買い戻しを誘って、10%程度高く寄付きましたがその後陰線を引く形で結局6%程度の上昇で取引終了しました。
その後アメリカのインフレ鈍化を示唆する指標が出たことにより、相場の上昇もあり11月11日には11,630円で取引終了して、8月下旬の株価まで戻してきています。
今後は金利低下によるグロース株追い風が続く可能性があると思いますが、その場合為替は円高に振れると考えられるため業績の圧迫要因になる可能性があることは留意する必要があるでしょう。ソニーグループの想定為替レートはドル円で140円としています。
この記事は11月12日時点で公開されている情報を基に作成しています。
投資は慎重に自己責任でお願いします。
日本たばこ産業(JT)の株価・業績を分析
今回は高配当株として個人投資家に人気の銘柄の日本たばこ産業(2914・JT)について分析します。
事業概要
日本たばこ産業の中核事業はグローバル展開している、販売数量世界3位のたばこ事業(たばこ製品の製造・販売)です。2021年度はたばこ事業の売上構成比は90.1%でした。残りは加工食品が6.3%、医薬3.5%、その他が0.1%となっています。
社名からは想像しにくいですが21年度の海外売上高比率は70%弱に上り、たばこ事業の本社機能も2022年からスイスに移しています。
たばこ産業の主なブランド
- メビウス
- ウィンストン
- キャメル
- LD
- ホープ
- セブンスター
- プルーム(電子加熱式)
業績と株価
日本たばこ産業は10月31日に3Qの決算を発表しています。印象としてはポジティブで2022年の業績予想を上方修正しています。
上方修正の理由としては、為替の円安進行や値上げ効果などが挙げられています。値上げしても想定以上に需要が落ちていないことは、ポジティブサプライズだと思います。
また、業績予想の上方修正に伴い配当の予想も150円から188円に修正しています。
3Qと修正後の業績予想が事前のアナリストコンセンサスも上回っていたため株式市場もポジティブな反応となりました。
決算前の取引最終日の終値は2464円でしたが、決算発表翌日は買い気配で始まり、寄付き後も上げ幅を大きく広げる展開となりました。
配当利回りを見ている投資家が多いとすると、増配発表前の利回り水準である6%前後のところで株価も一旦は落ち着く可能性が高いのかなと思います。
日本たばこ産業の株価の適正水準はどこか
日本たばこ産業は「多様な価値を提供するグローバル成長企業」を目指すとしています。
グローバル企業であることは確かですが、日本たばこ産業は成長企業と言えるでしょうか。この部分が日本たばこ産業の中長期的な投資判断をするうえで重要です。
日本たばこ産業が成長性のある銘柄かどうかの判断は、PloomX(加熱式たばこ)に勝算があるかどうかにかかる要素が大きいと思います。
PloomXは国内市場においてシェア拡大はしていますが、それでも22年3Q 時点で7.9%に留まっており、依然として国内ではフィリップモリスのアイコスが強い状態にあります。
紙巻きたばこから、加熱式へのシフトが進んでいるため、経営資源を集中投下してでもシェア拡大は中長期的には必須となっていると思います。
また、22年10月から英国でもPloomXが販売開始されますので、今後の動向には注目です。
グローバルなたばこセクターのPERは12倍程度です。PERが高くならない理由の一つとして、ESGの観点から機関投資家から敬遠されている事が大きいと考えられます。
例えば世界最大級の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金は、2010年からたばこを生産する企業を投資対象から外すことを決めており、その際に株式の売却も完了しています。
既に売却が完了しているため、これから日本たばこ産業の株価にESG的な理由でネガティブな影響が出るとは考えにくいですが、機関投資家からのたばこ銘柄への見方が変わらない限りPERが切りあがっていくというのは難しいように思います。
ただ個人投資家としては、PERが切りあがらないことで高配当を享受できるという側面があるのも事実でしょう。
今後の注目点
日本たばこ産業は株価を見るうえで注目しておくべき主な点をまとめました。
- 来期以降の配当の動向
- ロシア事業の動向
- 為替の動向
- PloomXのシェアの動向
最大の注目点はロシア事業の取り扱いだと思います。ロシアでの事業を撤退する企業が多い中で日本たばこ産業は、ロシアでの事業を継続しています。
3Qの決算資料によると22年12月期の業績見込みの内、ロシア市場の割合は売上高約11%、調整後営業利益で約21%となっており、かなり業績貢献の大きい市場となっています。
仮に撤退する場合、業績影響は大きく出ると考えられるため配当を維持できない可能性が高いです。
減配が見えてきた場合、現在の株価を正当化するのは難しくなってくると思いますので、最大の懸念点といえるでしょう。
また、海外での収益貢献が大きいため、円高に振れた場合業績の下押し要因となります。
この記事は11月7日時点で公開されている情報を基に作成しています。
投資は慎重に自己責任でお願いします。
セブン&アイホールディングス 決算と今後の注目点を解説
今回はセブン&アイホールディングスの株価と直近決算、今後の注目点を分析していきます。
セブン&アイホールディングスの事業領域
- 国内コンビニエンスストア
- 海外コンビニエンスストア
- スーパーストア
- 百貨店・専門店
- 金融関連
- その他
セブン&アイホールディングスといえば、国内コンビニのセブンイレブンやイトーヨーカ堂やそごう・西武を思い浮かべると思いますが、稼ぎ頭は国内から海外コンビニエンスストアにシフトしつつあります。
22年度2Q時点の営業利益構成比は、海外コンビニエンスストアは43%を占めています。特に21年5月に買収したガソリンスタンド併設がコンビニチェーンのスピードウェイの貢献が大きくなっています。
22年度2Q決算
セブン&アイホールディングスは10月6日に22年度の中間決算を発表しています。
中間決算時に通期の業績予想を上方修正しています。上方修正の理由として挙げられているのが、海外コンビニエンスストアが展開するガソリン小売りの市況影響の営業収益増加と為替レートの修正です。
上方修正後の業績予想は市場予想とほぼ同水準でしたので、そこまでサプライズ感のある修正ではありませんでした。
2Q主なサマリー
- 国内コンビニは営業利益は前年同期比+35億円。水道光熱費が75億円が増加したが、堅調な売上などでカバーし増益。
- 海外コンビニはスピードウェイの統合効果などで、営業利益は前年同期比で+879億円の1661億円。
- スーパーストア事業は水道光熱費などのきついコスト上昇を吸収できず、前年同期比で大幅減益。
株価の推移
セブン&アイホールディングスの株価の推移ですが、年初からは概ね5000円~6,000円の間で推移しています。
決算前後の株価の推移は、決算発表前にメディアの業績観測記事が出て上昇していたこともあり、決算発表後は売りで反応しました。その後は相場全体のリバウンドなどもあり、決算発表前の水準まで戻しています。
今後の株価を左右する注目ポイント
セブン&アイホールディングスの株価を左右する点としては以下のような事に注目しています。
- 国内コンビニは水道光熱費をカバーし続けられるか
- 国内コンビニ インフレで低価格志向広がるか
- 事業ポートフォリオの見直し
- 株主還元の強化
リオープンの影響もあり、コンビニ売り上げは堅調に推移しており、水道光熱費の上昇をカバーすることができています。今後もそのトレンドが続くのかは注目です。
また足元で財の物価上昇が進んでおり、これからも財の価格転嫁は続いていくと考えられます。消費者の低価格志向の強まりなどによって、コンビニが敬遠されるリスクも考える必要があるかと思います。
セブン&アイホールディングスは成長余地と資本効率の両方が劣っている、西武・そごうについて、売却する方向で動いています。売却自体は株価に織り込まれていると考えられますが、想定より高条件で売却できた場合は株価にとってプラスとなるでしょう。
こういった事業ポートフォリオの見直しは、株主であるアクティビストによる圧力によって進んでいると考えられます。アメリカの投資ファンドのバリューアクトキャピタルは22年2月にセブン&アイホールディングスに対し公開質問状を送付しています。
その公開質問状では、主に事業ポートフォリオについての問題点を指摘しており、セブンイレブン事業に集中するための大胆な改革を求めています。そのなかに、そごう・西武の売却が含まれています。
また、イトーヨーカ堂についても売却かスピンオフ、その他の非中核事業からも徹底するよう求めています。バリューアクトキャピタルの公開質問状では、これらの変革を成し遂げた場合2025年のEPSは中期経営計画比で1.4倍にになると推定しています。
決算書を見る限りセブンイレブン以外の非コア事業は、バリューアクトが指摘しているように資本効率が悪くなっていて、株価がディスカウントされる要因になっているのは明らかだと思います。
ですから仮にそごう・西武だけでなくイトーヨーカ堂などの非コア事業についても、売却などが実現すれば株価へポジティブインパクトは大きいと考えられます。
しかし会社側はイトーヨーカ堂に事業戦略上の意義があるとして手放さない方針ですし、創業家の影響力が大きい内は難しいのではないかといった内容の報道もされています。
イトーヨーカ堂などの扱いをどうするかによって今後のセブン&アイホールディングスの株価も大きく変わってくると思いますので、今後も圧力をかけるファンド側と会社側とのやり取りは要注目だと思います。
この記事は2022年11月5日時点の情報を基に執筆しています。
くれぐれも投資は慎重に、自己責任でお願いします。
【投資信託】アクティブファンドとインデックスファンドを徹底比較!
今回は投資信託の運用タイプである、インデックスファンドとアクティブファンドのそれぞれの特徴や、長期投資はインデックスファンドがお勧めの理由を比較しながら解説します。
ファンドの種類
インデックスファンドとは対象となる株価指数*の動きに連動したリターンを目指して組成されている投資信託です。
*代表的な株価指数
日経平均株価(日経225)
TOPIX(東証株価指数)
ニューヨークダウ(ダウジョーンズ工業株価平均株)
S&P500 など
アクティブファンドとは、インデックスを上回るリターンを目指して、投資する銘柄を運用会社が選別しているファンドです。
インデックスファンドとアクティブファンドを比較
アクティブファンド | インデックスファンド | |
コスト | 比較的高い | 比較的安い |
パフォーマンス | 指数から乖離 | 概ね指数に連動 |
商品選び | 比較的難しい | 比較的簡単 |
コスト比較
投資信託のコストは基本的に申し込み手数料と信託報酬と信託財産留保額の3種類です。
申し込み手数料
購入時の手数料は購入する商品や窓口によって異なります。インデックスファンドの場合、購入時の手数料は掛からないことが多いです。
アクティブファンドの場合購入時の手数料上限をファンドが設定し、販売会社(窓口)が手数料を設定している場合があります。
ファンドの手数料上限の設定は購入代金の3%前後である場合が多いです。
しかし、2022年10月時点でネット証券ではアクティブファンドであっても購入時の手数料は設定していないことがほとんどです。対面証券や銀行などでは、手数料を取られることが多いので注意が必要です。
信託報酬
運用管理費用として、委託会社,販売会社,受託会社に間接的に支払う費用です。
この費用はファンドの純資産額の年率何パーセントといった形で、日々計上されてファンドの基準価格に反映されます。
ファンドへの基準価格への影響は、毎日少しずつなので意識しにくいですが、長期保有になればなるほど信託報酬の基準価格への影響が大きくなるので、信託報酬率はどの投資信託を選ぶか決める際の重要な要素になります。
信託財産留保額
保有している投資信託を解約,換金する際に残高から引かれる費用です。
これは運用会社などへの報酬ではなく、そのファンドの純資産額に組み込まれます。なので引き続き投資を続ける人を保護する目的の費用といえるでしょう。
信託財産保留額はインデックスファンドには基本的にありません。アクティブファンドでも設定されていないファンドも最近は多いですが、設定されている場合0.3%前後に設定されている場合が多いです。
パフォーマンス比較
インデックスファンドは時々、トラッキングエラーといって指数から乖離する場合もありますが、基本的にそこまで大きく乖離することはありません。
アクティブファンドの場合ファンドによって組み入れ銘柄や手数料が大きく異なるためパフォーマンスにばらつきが出ます。
インデックスファンドを上回る成績のアクティブファンドもあれば、下回る成績のアクティブファンドもあります。過去インデックスを上回る成績を出してきていたとしても、それがいつまで続くかはわかりません。
商品選び
投資信託の商品選びのポイントはコスト面や過去のパフォーマンスや純資産額、運用方針など色々な事がありますが、インデックスファンドの場合、投資対象を日本にするか、米国にするか、全世界にするかなどさえ決めてしまえば、投資信託は数本に絞られるため比較的簡単です。
アクティブファンドは投資対象を決めても、多くの投資信託が残るため商品選びは比較的難しいと思います。
長期投資のメインはインデックスファンドがおすすめの理由
運用の安定性
アクティブファンドがコストが高い理由は、主には運用会社の人が市場や会社をリサーチしてから投資判断をしているためですから、アクティブファンドの成否は運用会社の人材に依存していることになります。
過去のパフォーマンスが良かったとしても、人材が変わってしまうリスクや人材の質そのものに対するリスクをはらんでいるように思います。 その点インデックスファンドは運用会社がどこだろうと、誰が運用担当者だろうと対象となる指数と同じように銘柄を組み入れるだけですので、人が変わっても質が変わることはありません。
信託報酬の低さ
長期投資の場合、信託報酬の低さは過小評価するべきではありません。
既述したように、信託報酬は毎日少しずつ計上されるため短期では違いはそんなに大きくありませんが、長期では基準価格への影響度は顕著に出てしまいます。
(例)100万円を投資信託で10年間運用 (価格変動を無視しています) 信託報酬が年率0.2%の場合の10年間で基準価格に反映されるコスト
2万円
信託報酬が年率1%の場合の10年間で基準価格に反映されるコスト
10万
精神的に楽
投資をする際は精神的に負担にならないような商品を選ぶことが大事だと思います。
アクティブファンドの場合、指数が上がっているのに自分の持っている投資信託は全然上がっていないという事が起きえます。
せっかく苦労してファンドを厳選したのに、選ぶのも簡単でコストも安いインデックスファンドより、パフォーマンスが悪いというのは、精神的にダメージが来ると思います。
まとめ
株の個別銘柄と同じでインデックスよりも儲かるアクティブファンドもあれば、下回るファンドもあります。
もし気になるアクティブファンドがある場合は、インデックスファンドをメインに、サブの小さい割合でアクティブファンドを買うのいいでしょう。
ネット証券であれば100円から買えますので、お試しで買うことも可能なのでおすすめです。
投資をされる際は目論見書等の運用会社,販売会社から発行される書類を読んで、理解した上で投資しましょう。
くれぐれも投資は慎重に、自己責任でお願いします。